ヘンリー・ジェイムズによるハーマン・メルヴィルの評価

ヘンリー・ジェイムズ(Henry James, 1843-1916)は、
19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍したアメリカの小説家ですが、
彼はハーマン・メルヴィル(Herman Melville, 1819-1891)に対して
冷淡で批判的な評価を下していました。

ジェイムズのメルヴィル評

ジェイムズがメルヴィルについて言及した有名な記述は、
「アメリカ文学における主要な伝統についてのエッセイ」(1883年)にあります。
彼はメルヴィルを「失敗した作家」とみなし、次のように述べています。

> 「メルヴィルは野心的な試みをしたが、
彼の作品は方向性を見失い、
最終的には読者を満足させるものにはならなかった。」

また、ジェイムズは『白鯨(モビー・ディック)』についても否定的な見解を持っており、
メルヴィルの作品は「無秩序で、統一感が欠けている」と考えていました。
ジェイムズはリアリズム文学を重視していたため、
メルヴィルの象徴主義的・哲学的な語りや過剰な比喩表現を評価しませんでした。

ジェイムズの文学観とメルヴィル

ヘンリー・ジェイムズは、洗練された文体と心理描写を重視し、
リアリズムの精密な技巧を追求していました。
彼の代表作『ある婦人の肖像(The Portrait of a Lady)』や
『デイジー・ミラー(Daisy Miller)』は、
細やかな人間心理の分析に基づくものです。

一方、メルヴィルの作風は壮大な象徴性・寓意・メタフィクション的な要素を持ち、
リアリズムよりもロマン主義・神話的な語りに傾いていました。
このため、ジェイムズには「荒削りで統一感のない作家」と映ったのです。

ジェイムズの評価の影響

19世紀後半から20世紀初頭にかけて、
ジェイムズのようなリアリズムを重視する批評家たちは、
メルヴィルの文学的価値を過小評価しました。
その結果、メルヴィルは生前にはほとんど忘れられた作家となり、
彼の作品は広く読まれることはありませんでした。

しかし、1920年代の「メルヴィル・ルネサンス」(再評価の流れ)により、
『白鯨』は20世紀文学の最高傑作のひとつとみなされるようになり、
ジェイムズの批判は時代遅れのものとなりました。

結論

ヘンリー・ジェイムズは、メルヴィルを否定的に評価し、
「文学的に失敗した作家」とみなしていた。
しかし、その後の批評的評価の変遷により、
メルヴィルの作品は20世紀以降に高く評価され、
ジェイムズの見解はもはや主流とは言えなくなっています。

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